『カリスマ書店員』

『カリスマ書店員』

朝晩は涼しくなり、すっかり秋めいてきた長月。そんな9月のある夜、サッカー日本代表・長谷部選手の『心を整える。』を買うために、仕事帰り、王子駅前の本屋さんへ立ち寄りました。お目当てのものはすぐ見つかり、レジへ持っていくと…
             「長谷部選手、今度移籍することになりましたよね。
                がんばってもらいたいですね♪」

と、マスクをかけた店員のお姉さんが、話しかけてきます。書店のレジで話しかけられたことなど初めての経験でしたから、面食らった私は「あぁ…、そ、そうですね」とよそよそしく返しました。お姉さんは封入の作業をしながら、マスク越しに見る表情がにわかに微笑んでいます。しばらく間を置くと…
             「遠藤選手の本も良かったですよ♪」

と、さらに話しかけてきます。本屋さんの店内で、(しかも会計前のレジにおいて!)本の推薦を受けたことも、もちろん今日が初めてです。私は“この人、サッカーファンなのか?”と心の中で疑念を抱えつつも、次の瞬間には「え?何て言う本ですか?」と聞き返していました。すると、
           「え~と、たしか『信頼する力』だったかしら。
             この(長谷部選手の)本は、大衆向けで良かったけれどもね、

               遠藤選手の本も、とっても面白かったですよ♪」

ほんの数秒のやり取りでしたが、全く嫌味のないスマートなご提案に、私は心をわしづかみにされてしまいました。会計を終えると、
             「またのご利用をお待ちしております。
                長谷部選手のご活躍をお祈りしております」

と、深々とお辞儀をなさっています。私は、まるで長谷部選手になったかのような気分で(笑)意気揚々と帰路につきました。なるほど、提案とはこういうことなのかと。つまり、趣味・嗜好を把握し、相手のことを最大限、慮(おもんぱか)った上で、本当に良いと思ったものをオススメする。「これは、一本取られたなぁ」と、妙に納得してしまいました。

実はこのお姉さん、見たところ65歳前後のいわゆる“おばちゃん”なのですが、彼女の口元(マスク)をよ~く見てみると、何か小さく文字が書いてあります。
                  歯の治療中です
                       すみません

…(笑)やっぱり、仕事のデキる人間はやることが違うなと。こんなご近所にカリスマがいらっしゃったなんて、思いも寄りませんでした。“おばちゃん”だなんて失礼なこと言ってスミマセン。あなたはいつまでも“お姉さん”です。また後日、今度は遠藤選手の本を買いに行こうと思います。その時は、ぜひ“あなたから”買いたいと思っています。そして、他にも推薦図書をお伺いさせてください。

私もこの方を見習いたいと思います。生徒たちから「先生を見習いたい」と思ってもらえる教師。私たちが目指すべきところを示唆しているようにすら思えた、素敵な“お姉さん”でした。信頼関係とは、そういうことですよね。

       

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心が整いました。

 

 

 

 

 

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