『今までに経験したことが無いくらいの学習をするよ・・・』
私には講習会の前になると、これまで必ずしてきたことがあります。それは、講習会に参加する生徒のひとり一人と「講習の学習目標」を話し合い、事前に「講習の目標」を決めることでした。「どのような学習をどれだけやるか」を、しっかり決めてから、講習会の学習をスタートしてもらいます。
私が高田馬場校の教室長になって、初めて面談したのが中3のYさんでした。Yさんは区立中3の受験生でした。全く知らない新しい教室長との面談は、きっと彼女も緊張したことでしょう。私は、Yさんに、こう言いました。「この春は今までに経験したことがないくらいの学習をする予定だけど、いいかな?」Yさんは、かなり動揺した様子で、緊張して、うつむきながら不安そうにしていました。
「Yさんの志望校に合格するためには、この春にこれぐらいの学習が必要だよ」と言って、私は彼女に英語と数学のテキストを2冊渡しました。それぞれ250ページほどのボリュームがあるものです。ちょうど中3になるYさんに私が課したノルマは、中1と中2の復習である180ページまでを終わらせることでした。通常ならば、数ヶ月かけて終わらせる量の分量でした。それをたったの8日間で終わらせることは、不可能に思えたことでしょう。「この春に、これだけの量を終わらせることができれば、第一志望校の合格に向けて、いいスタートが切れるから、苦しいかもしれないけど、Yさんには何が何でもがんばってほしいんだ!」、そう続けました。
これは、私の小さな「賭け」でした。私のとてつもない提案を、Yさんが受け入れてくれるかどうかもわかりませんでした。しかし私には長年(!?)の経験から、確かな確信がありました。「成績を上げ、自信を持たせてあげたい」という誰にも負けない強い信念を持って、本気でぶつかって行く時、その思いは必ず生徒に伝わるということを…。「英語も数学も180ページまで終わらせれば、受験生として最高のスタートが切れるよ!」と言う私の言葉に、ちょっと戸惑いながらも、Yさんはテキストをのぞき始めました。しばらくの間、Yさんは無言でテキストを眺めていました。英語と数学のテキストを何度も何度も見ています。
そしてしばらくして、彼女が初めて口を開きました。
「わたし、やってみようかな…、何かできそうな気がしてきた」
この言葉が出れば、私の仕事の大半は、終わったようなものです。会って間もない教室長から、とてつもない量の課題を課せられたにも関わらず、不安ながらもYさんはやってみるという決断をしてくれました。
さあ、これでYさんも私ももう後には引けなくなりました。Yさんの担当の先生とYさん、そして私の3人で目標達成の計画を立てました。8日で180ページを2教科。1日の学習量は、英語と数学の両方を合わせると約50ページ。Yさんの必死の戦いは始まりました。
でもここまで来ると、私の出番はなくなりました。もうすでにYさんの闘志に火がついていました。1日に4時間の授業を受け、授業後は教室で自習をし、そして自宅に帰ってからは宿題をこなす、という流れが自然と出来あがっていました。Yさんは、初日、2日目、3日目と与えられた量の課題を全てこなしてくれました。3日目の夜に、お母様にお電話をしてみると、「先生、うちの娘が部屋にこもって深夜まで、食事もせず勉強しているんですよ!こんな姿は、今までに一度も見たことがなくて…、一体どうしちゃったんでしょう?」と驚きながらも、大変お喜びのご様子でした。
結局、Yさんは予定より2日早い講習6日目に、英語も数学も180ページまで終わらせることができました。残りの2日も、Yさんの勢いはおとろえず、中3の予習まで終わらせてしまいました。Yさん自身も、自分のがんばりに驚いているようでした。YさんとYさんの先生、そして私の3人で、目標達成の喜びを分かち合いました。
私は教室長として、ひとり一人に明確な目標を提示してあげ、その人の闘志にちょっと火を灯してあげることが、私の仕事だと思っています。そしてそのことは、今までの学習習慣を完全に変えてしまうこともあるかもしれません。稲門学舎に通ってくれるひとり一人の成績が上がり、自信を持ってもらうために、これからも信念と情熱をもって皆さんに接していきます。